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1980年~幼少期編

はじめに

このコンテンツは、

幼少期からはじまり、
ナンピース日記に通じ、

そして現在の俺を結ぶ物語となる。

プライバシーの問題もあるので、名称は変更しているが、、、

これから執筆する全ての物語は実話である。

Sanzi

■第1話:交通事故死

ガシャーーーン!

大きな音とともに
見知らぬ車が突っ込んできた。

気がつくと、俺の父親は全身に
ガラスの破片が刺さり気絶していた。

妊娠中の母親は、俺を守るように
身を挺して覆いかぶさっていた。

俺の年齢は3歳。

物心というものがつく瞬間が
あるとしたら、

俺の記憶はここから
記録を開始したといえる。

家族で信号待ちをしていた車中。
対向車線から自動車が向かってきた衝突事故。

時代はバブル経済が始まろうとしていた昭和。

エアバッグもドライブレコーダーもない世界。

さいわいにも俺と母親に怪我はなかった。
後日、この交通事故は裁判に持ち越された。

「奥さんなら裁判に勝てるかもしれません!」

弁護士が俺の母親にそう言い放つ。

3歳の俺には意味がわからなかった。
しかし大惨事であることは理解できたし、

なにより母親は3歳の俺にも、
大人と同じように状況を説明してくれた。

そもそも裁判で運転手の証言などとれるはずもない。

父親は大怪我をして意識不明の入院中。
衝突してきた車の運転手は…

即死だった。

母親は幼子である
俺の手を引いて裁判所に向かう。

俺たち家族は車中で
信号待ちをしていただけ。

ただそれだけなのに、
それを証言しなければならない。

「私の、お腹の赤ちゃんも亡くなりました。」

そう。母親は妊娠していた。

死亡したのは相手側だけではない。

俺にできるはずの弟は、
この世に誕生することもなく事故死したのだ。

これは俺の物語。

伝説のナンパ師と呼ばれる、遥か以前の物語。

■第2話:保険金1億円

父親の意識が戻ったので、
母親に連れられ病院に向かう。

すると見知らぬ女が病室に近づいてきた。

「あなたの家族だけ生きているなんてズルいじゃないかぁ!」

どうやら事故死した男性側の奥さんらしい。

母親は、その女と父親を
面会させないように、

病室手前で通せんぼしながら言った。

「私だって流産して子供を失ってるわ。痛み分けでしょ?」

「あなたは裁判に勝って保険金が支払われるでしょ!私は保険をかけてなかったから無一文なのよ!」

「わかったわ。なら保険金は全額あなたに差し上げるから。あなたの夫が即死だったことを、私の旦那には絶対言わないでちょうだい。あの人は、そこまで強くないから。」

相手側は保険をかけておらず自動車で暴走して衝突して即死。

なぜそんな暴挙に出たのか
運転手の心理状態は誰にも分らないが、

とにかく生きてる者達は傷つき、大きな爪痕を残すこになったのは事実だ。

俺たち家族には事故の保険金が下りていた。

その金額なんと…約1億円。

この大金を母親は惜しげもなく
相手に支払うと約束した。

「そんな口約束、信用できないわ!」

相手の女がそう言うと母親は、
かぶせるように啖呵を切る。

「いますぐ手続きしてあげるわよ!そのかわり、うちの家族に手を出したら承知しないからね!わかるわね?この意味?」

引き下がる女。

そして母親は約束通り1憶円を手放した。

「このことは、お父ちゃんには内緒だからね?」

まだ3歳の俺にそう告げる母親。

これは俺の物語。

そして俺と家族の物語。

■第3話:火傷女

父親の病室には、
他の患者も入院していた。

その中でも印象深いのが、
全身火傷を負った女性。

男に振られたショックで、焼身自殺しようとしたら死ねなかったそうだ。

「身体に火をつけたら、家が火事になって大家から弁償しろといわれててさ。今は借金かかえてる状態なのよね~」

あっけらかんとした様子で話す火傷女性。

「そんだけやって死なないのだから、もう生きるのが運命だろ?」

マジメに答える俺の父親。

「そうなのよね~なんであんな男のために自殺なんか考えたのか、今考えるとバカバカしくなっちゃってさ!」

などと笑いながら答える彼女は、
早く治療して、借金を返すために働かないとと意気込む。

どんなにつらくても 笑い がそこにあった。

どんなに過酷でも 笑顔 がそこにあった。

作り笑い?そんなくだらないものじゃない。

どん底から見えてくる
希望もあるのかもしれない。

そう幼心に感じる3歳の俺であった。

これは俺の物語。

パンドラの箱を強制的に開けられた物語。

■第4話:貧乏生活の始まり

さぁ、これから貧乏生活の始まりだ!

1億円を手放した俺たち家族は、

都心から遠く離れた
地方の田舎町にある

ボロボロの安アパートに住むことになる。

父親は大怪我で入院中。
車も免許取消で職も失う。

全財産は、母親が働いていたときに蓄えたわずかな貯金のみ。

生活保護を受けに行ったが、
貯金がわずかでもあると受理されないらしい。

「世の中にはウチらよりももっと大変な人がいるらしいから保護してもらえないってさ」

笑顔でそう説明する母親。

俺たち家族には、子供だから理解できないなんて概念は存在しない。

実際、俺は3歳の当時から
現在まで理解力は同じままだ。

生まれたての赤ん坊は全ての言語を理解する事ができるという。

脳の負担を減らすために、日常でよく使われるものを自動的に選択しているにすぎない。使われない言語能力などは、脳のニューロンが結びつかなくなり固定化され排除されていく。

だとすると、こうして
1つ1つの状況を説明してくれる母親の行動は、

俺の脳機能にとって、大いなる刺激をもたらしてくれたのかもしれない。

この国は3歳の俺を保護してくれなかった。

ならば自力で活きるしかないだろう。

交通事故で生死をさ迷い入院中の父親と、

交通事故による流産で弟と死別した母親と、

共に協力して生き抜くしかないだろう。。。

これは俺の物語。

自分で自分を保護する物語。

■第5話:林檎アパート(5部屋目のホステス)

林檎アパートは、横長に連結した
長屋のようなアパートで、

区切られた5部屋にそれぞれの住人が住んでいた。

左端に住んでいるのが俺ら家族。
右端に住んでいたのがキャバレーのホステスをしていた女。

彼女はいつも俺をみかけると、

牛乳くれたり、バナナくれたり、
いろいろ親切にしてくれた。

林檎アパートの住民は、
どれもかしこも 訳あり な人が転がり込んでいる。

もちろんこのホステス女も訳ありで…

ある日、俺と母親が住んでいたアパートの部屋に、
借金取りのオッサンが怒鳴りこんできたんだ。

「おい!ミシンの代金を払えこのやろう!」

「なんなのあんた!?」

「ミシン代を借金してこの部屋に逃げ込んできてるはずだぞ?」

「今の私にミシン買う金なんてあるわけないでしょうが!どんな人を探してるのよ?」

「夜の仕事しる女で、端っこの部屋に住んでるって情報があったんだ」

そりゃ部屋の端っこの左右を勘違いしてるだろう!

って誰もが突っ込みたくなるのを母親は我慢して答える。

「そんな人知らないわよ!」

借金取りはそのまま帰っていった。

当時のミシンは高級で
数十万円とかしていた時代だったんだ。

だからローンで借金してミシンを購入するというのが一般的。

もちろん俺の家は、生活できるかどうかの
瀬戸際にたたされているわけで、

ミシンなんて高価な品を
購入している余裕はない。

後日、ホステス女が俺の母親と話しているさい、

「奥さん~変な男が尋ねてこなかった?」

と聞いてきたから、借金取りが来たことを母親は説明した。

「お金払わないって集金のオジサンが探してたけど…」

「あぁ、やっぱり?それ私のことだわ」

「一応知らないって言っといたけど?」

「まぁ、そのうち払うつもりではあるんだけどさ」

「うん、払っといたほうがいいよ」

などと会話していた、その夜…

ガシャーン!!

と、ホステス女の部屋の窓ガラスが割れる音が聞こえるんだ。

近所の人が「どうした!どうした!?」と外に出て集まってきたら、

血だらけのホステス女と男が大喧嘩してるわけ。

どうやらホステス女は不倫をしていて、

その男が嫁と別れないわ、

金は貢がせたまま支払わないわで、

死ぬほどの大喧嘩になったらしい。

アパートの住人がケンカの仲裁をして、
救急車呼んで、事なきを得たのだけれど。

そりゃ、こんなハードな出来事が日々毎日のように起こるんだ。

当時3歳だった俺の物心が、
しっかり記憶しているのも不思議ではない。

これは俺の物語。

インパクトの強い日々の物語。

■第6話:林檎アパート(4部屋目の大家族)

林檎アパートは
水道代の支払い方法がかけもちだった。

アパート全体の水道代を合計して各部屋の住人が住んでいる人数で割るという方式。

例えば、俺の家族だと父親、母親、子供で3人分を支払う。

ところが4部屋目に住んでいる、ナナちゃん家は7人家族だから大変だ。

水道代だけでもウチの倍以上となる。

ナナちゃんは俺の1個上の幼稚園児で、

末っ子なんだけれど、
他に5人も兄弟がいるわけ。

長女は、あまりに子供が多くて飯が食えないので、

幼女として
他の家庭に売られてしまった。

次女と長男は、高校に進学せず働いて家計を支えてる。

次男と三男は小学生。

三女はナナちゃんで幼稚園。

では親は何してるのかというと、

実は、母親が血を全部入れ替えないと死んでしまう

特殊な病気で、
治療費に凄くお金がかかるのだ。

当時はエイズという
概念が浸透していなくて、

輸血にエイズの血が混ざっていることで感染するという問題が、のちに発覚するような時代。

さいわいにもナナちゃん家の母親は
エイズには、ならなかったけれど、

やはり治療費もふくめ大家族なので生活が大変なのは事実だ。

それなのに、俺の母親が事故で入院している父親の看病をしに、

毎日俺をつれて通っている間に、

ナナちゃんの母親は、俺のアパートの玄関前に、

食料とかを買って置いてくれてるの。

「引っ越してきたばかりで買い物行くのも大変だろうと思ってね、置いといた」

次女と長男が米屋と食材屋で
働いているので食料が安価に入手できるそうで、

大家族だから家事の大変さもわかってるのだろう。

俺の母親は「ありがとうございます、助かります」ってお礼言っててさ、

俺も、なんとか病気が治れば
いいのになって思ってたんだよね。

林檎アパートは、基本訳ありな人々が住んでいるからさ、

皆で助け合いの精神が
どこかにあったのかもしれない。

これは俺の物語。

助け合いの物語。

■第7話:林檎アパート(3部屋目の夜逃げ家族)

シンキとトモキは
5歳の双子だったが、

母親が水商売しながら母子家庭で育ててた。

理由は不明だが、夜逃げして
林檎アパートに引っ越してきているため、

家には家財道具はおろか、
布団もろくたらないような状況。

双子の母親は仕事が夜からなので、早めに夕食をすましてしまう。

だから夜中になると
子供がお腹を空かしてしまうため

毎晩、よその家の窓を覗き込んで

他の家の食卓をうらやましそうに眺めているんだ。

一般的に晩飯は19時ぐらいだけれど、
双子の家は15時ぐらいが晩飯の代わりで、

それから朝まで食べ物ないからね。

つねに空腹で、
あまりにお腹が空きすぎて腹痛おこしてた。

これは俺の物語。

満腹のありがたみを知る物語。

■第8話:林檎アパート(2部屋目の倒産家族)

俺ら家族の隣の部屋は、
キンキン一家が住んでいた。

もともとキンキン家は、
起業家で会社を経営してたのだけれど、

工場が火事になり会社が倒産してしまい、林檎アパートに来た。

ただ他の住人と違い、
奥さんの実家が裕福なため、

資金を援助してもらい、また新たに会社を立ち上げて再スタートしている最中。

キンキンは年齢が、俺の2個上で5歳。

上に中学生の兄貴がいて、

あとは父親と母親がともに
借金を返済しつつ会社を経営しているという家族だ。

両親が共働きなものだから、
キンキンは幼稚園に行かないで、

そのまま俺の家で一緒に遊ぶことが多くてさ。

俺の母親が「キンキン幼稚園に行かないの?」って聞いたら、

いつのまにかキンキンは幼稚園を辞めてて

「ここで遊んでていいって言われてるー」

なんてキンキンが言うものだから、

俺の母親がキンキンの母親が帰宅したさいに注意したんだよね。

「ウチは保育所でもなんでもない、もしもキンキンに何かあったらどうするの?」

「何かあっても奥さんに任せるわ」

「もしも何かあったら、私のせいになるじゃないの!そんだけ無責任なこと言うならば、私が責任とらなくてもいいように契約書を書いてハンコ押しなさい!」

って一喝したんだ。

そしたらキンキンの母親が契約書を作ってハンコ押して持ってくるんだよ。

もう仕事中心で
子供をかわいがる余裕がないんだよね。

これは俺の物語。

契約された子供と遊ぶ物語。

■第9話:林檎アパート裏の当たり屋家族

林檎アパートの裏は駐車場になっていて、
そこの隅にボロボロの掘っ立て小屋みたいなのがあった。

木造のプレハブみたいな一部屋しかない家。

その汚い家は、ドアを封鎖してるから入れなくて、
窓ガラスを外して入るようになっている。

冷蔵庫を横に倒して階段代わりにして窓から出入りするという家。

そこに小学2年生の少年タキは中学生の兄と兄弟で暮らしていた。

親はいないのかって思うだろうけれど、
両親とも、たまに帰宅するけれど基本的には家にいない。

タキの母親は、男作って蒸発してて、
父親は詐欺師で、小さな犯罪で捕まったり出所したりを繰り返している。

ある日、タキが腕に包帯巻いて俺の家に遊びに来ててさ。
俺の母親が「どうしたの?」って聞いたら、タキは「事故った」と言うの。

そして数日後に、また遊んでたら、今度は足に包帯巻いてきたりしてるから、
再び俺の母親がタキに「どうしたの?」って質問するんだよ。

そしたらタキは「事故った」って答えるの。

「そんなにいっぱい事故るはずないでしょ」って俺の母親が問い詰めたら

「お父ちゃんがバッて押して車に当たって怪我した」ってタキは白状するわけ。

「あんた、それ当たり屋じゃないの!」って、判明してさ。

「それでお父ちゃんが、お金もらって生活してる」ってタキが言うから、
「そんなんで食べて行くんじゃないよ!」って俺の母親がタキの親に注意してたんだ。

父親が小学生のタキを車道に放り込んで、交通事故を起こさせるわけ。
そして運転手から示談金を巻き上げるという手口。

詐欺の一種なのだけど、これを<当たり屋>という。

だからタキは、いつもどこかしら怪我をしてたね。

そんなタキは、小学生だったわけだけれど、親がそんな感じで機能してないものだから、
給食費払ってないからという理由で、学校で給食を食わしてもらえなかったんだ。

そういう事情を知った俺の母親は、

「義務教育なんだから給食あまったのでいいからくれって言いいなさい!」ってタキに助言する。

それでも小学校側はタキに給食を与えないので、俺の母親が交渉しに行くことに。

「どうせ給食は余るんだから、あまって捨てるぐらいならタキにあげなさいよ。そもそも給食費も払わないんじゃなくて、支払いが遅れてるだけで、金ができたら、タキの親も払うんだから待ってあげればいいでしょ?少々遅れても義務教育なんだからさ。それがダメなら、このままだとタキが皆にイジメられてしまうから、ウチが昼食出すから、ご飯食べさせに帰らせてください!」

そう言い放つ、俺の母親。

そしたら学校の先生が「あなたは親戚か?」って言うんだよね。そしたら俺の母親は・・・

「いや、親戚じゃないわよ!」と言うわけ。

学校側は不思議そうな顔をして、「そしたら隣の、おばさんなのか?」と問うから、

「いや、隣ではないわね。家は離れてるわよ?」って俺の母親がマジメに答えるんだ。

もう学校の先生としては、親戚でもないし、隣人でもない、タキとは他人の、おばさん(俺の母親)が、交渉しに来ることが不思議でしかたがないらしい。

タキと俺の母親との関係性を周囲に説明するのは難しいだろう。それでも俺の母親は、関係性を次のように説明した。

「私とタキが、どういう関係か知らないけど、いつもウチに遊びにくるから、そういう関係よね。小さいときから、鼻ふいてやったり、足ふいてやったり。ウンコついてる尻ふいてあげたり、パンツ 履かせてやってるあいだに大きくなったからさ。育ててるようなもんでしょ?」って言うんだよね。

そもそもタキの母親も、金ないわけじゃなくて、男好きで外に出て蒸発してるだけだから。
普段どこに消息しているかは不明だけれど、ときどき、帰ってくるんだ。

そしてタキの母親は「奥さん、いつも、ウチの息子がお世話になってます。ウチのコをよろしくお願いします」って、俺の母親に言うと車に若い男を隣に乗せて「それじゃ」ってすぐいなくなるんだよ。

だから俺の母親が、タキの母親に「あんた給食費とか、そういう子供のお金は払いなさいよ!?」って注意してたから、タキの母親は滞納してた給食費は遅れて払うようにしてたんだよね。

俺の母親いわく、タキの母親は女性ホルモンが強すぎて耐え切れないんだろうとのこと。
理性より性欲が勝ってるわけで、早くに子供産んで年齢も若いもんだから、本能が押さえきれない状態。

子供を可愛がる感情よりも、性欲が、それを超えちゃってて、それが収まれば戻ってくるのではないかと言っていた。

■第10話:平等のようなフリ

タキが通っていた小学校には制服が必要だった。

私立ではないのだが、地域的に差別をつけないようにっていうしきたりがあって、
小学生は私服ではなく、学校指定の制服を着用して通わなければならなかったんだ。

ただ、その制服が3万円もするから大変だ。

子供はすぐに成長するから、
1年も経過したら制服が小さくなって着られなくなるわけ。

そもそも、タキの家族は機能してないから。

父親は子供に当たり屋させて商売してるし、
母親は男作って蒸発している。

そんな状態で、毎年、制服など用意してくれるはずがない。

タキは小学生なのに、着れる制服がないから学校に通えないわけだ。

差別が無いようにと定められたルールのはずが、
実際には、大差別を生み出してしまっている。

そりゃ、家族が機能してて金がある家は、制服着させて平等のようなフリして子供を通わせてればいいかもしれない。

でもタキのように、境目に存在しているような環境にいる子供は、
義務教育だというのに、こうしたルールのために学校に通うことさえできない状態にあるわけだ。

こうした問題を解決すべく、
俺の母親は、学校側にある提案をしだした。

何度も言うように、俺は幼稚園で、小学校とは何の関係もない。
当事者である小学2年生のタキ少年と、俺の母親は親戚でもなんでもない。

たんなる俺の家に遊びに来てただけの近所の子供というだけである。

そんな、俺の母親が学校側に提案したのは「皆に声かけて、古い制服を回収してください!」という事であった。

ようするに、着られなくなった古い制服を回収してリサイクルすれば、
制服が買えなくて学校に通えないような子供も中古の服を着て通えるようになるわけ。

こうした仕組みを、俺の母親が作り出し、学校が取り入ることで、
タキは小学校に通うことができるようになった。

こうして<近所のおばちゃん>である俺の母親が目をつけてるため、
教育委員会とかで問題になるとマズイという事になり、先生達もタキをかわいがるようになっていった。

給食費も学校が立て替えてくれるようになったんだよね。

■第11話:火事だぁ

「火事だぁ!!!」

タキの家の隣はダンボールを作ってる紙製造工場だった。
そこから炎が出火して、夜中に大火事になった。

夜だというのに、あたり一面が真っ赤なの。

とにかく消防車が来るまでの間、
林檎アパートなど周囲に飛び火しないように、くいとめないといけない。

近所の人が皆出てきてさ、
バケツに水を汲んでリレー形式で、火を消すんだよね。

そうこうしてたら消防車がやってきて、
そしたら俺の母親が「隣のボロ屋に、子供が住んでいるから、窓ガラスを割れ!」って叫んでさ。

消防士が水をかけて窓ガラスを割って、タキ兄弟を救出しようとするわけ。

そしたらタキは、隣の床屋にかくまってもらってたらしく、家にいなかったんだよね。

次の朝さ、タキが俺の家に来て、

「昨日の火事で消防車に窓ガラス全部割られて家が水浸しで、寒くて寒くて、いられないから床屋のおじさんとこに泊まってるんだい」って言う。

言われもしないよね、俺の母親が、タキを助けるために窓ガラスを割れって言ったってさ。(笑)

まぁ、無事でよかったっていうことで。

それで俺の母親がタキに向かって

「お父さんは、どこに行ってたのよ?」って聞いたら「風来坊」ってタキが答えるんだ。

母「なに?風来坊?どこほっつき歩いてるのよ!」

タ「だから風来坊」

母「だから風来坊なんでしょ?働かないで、子供おきっぱなしで、どこいったのよ!?」

タ「だから風来坊で働いてるんだよ!」って。

母「なに?名前が風来坊ってとこで働いてるの?まぁ、お前のお父ちゃんにぴったりだわ!」

って皆で大笑いよ。

タキの、父親は、働かないで、詐欺師みたいなことばっかりやってたんだ。
タキを使って道路に飛び込みさせて人身事故の当たり屋させて慰謝料をふんだくったりしてさ。

だから見回りの警官に「おい」って呼び止められて、「ちゃんとやってるか」っていつも止められてたんだよ。

俺の母親が、タキに当たり屋させてるのを注意してからは、
飲み屋の「風来坊」って店で働いてたというわけ。

俺ら家族が、林檎アパートに引っ越してきたことで、
周囲の環境が少しだけ変化してきたのは確かだと思う。

■第12話:死ねなんて言う権利ない

ある日、

キンキンの、お兄ちゃんが、タキに「死ね」って言ってるのを、俺の母親が見つけて怒ってたんだ。

「なんで、死ねなんて言うの?」と俺の母親。

「給食費も払わないで給食を食べてるから、こういう奴は、世の中のためにならないから死ねって言ったんだ」ってキンキン兄が言う。

すると俺の母親は、キンキン兄に注意するんだよね。

「あんたが、命をどうこう言う権利はないでしょうが、せっかく、やっとこどっとこ生まれてきてるのに、あんたが死ねなんて恐ろしいことを何で言わないといけないの?じゃぁ、あんたに死ねって言ったら、あんたは、どんな気持ちだ?バカとか、クソとかは、いい。でも死ねって言葉だけは、言ったらダメだよ?」

そう言い放つと、キンキン兄は、泣き始めたんだよね。

「なんで、涙が出るのよ?」って俺の母親が聞いたら、

「だって給食費を払わなくて、僕とタキでは、僕のほうが正しいと思うのに、おばちゃんは、僕のほうじゃなく、金を払わないタキのほうの味方をするのは何でなの!?」

そう答えるキンキン兄。それが悔しくて泣いてるっていうんだ。

すると俺の母親は、また説明してあげるの。

「だから、おばちゃんは、そこのところを悪く言ってるわけじゃないし、タキが給食を食べたって義務教育なんだからいいんだよ。お金は、母親が持ってきてくれないから払えないんだから、何にもタキのせいじゃないでしょ?親が払えるときに払うんだから、あんたと給食は関係ないでしょ?たとえタキが無料で給食を山のように食べても、あんたと給食は何も関係ないのよ?」

そうやってなだめてたら、少しわかってきたみたいで、泣き止んだんだ。

「あんたは、同じ林檎アパートの住人なんだから、かばってあげるのが本当でしょ。仲間なんだから。それなのに、周りの奴と一緒になってイジメてるんじゃないよ。おばちゃんが怒ってるのはね、生まれてきた命をね、あんたが死ねなんて言う権利ないだろって言ってるんだ。私が、あんたに死ねって言ったら嫌でしょ?」

こう俺の母親が言うと、キンキン兄は「死ねって言われたら嫌だ!」と答える。

「そこを、おばちゃんは怒ってるだけでしょ。わかる?」

するとキンキン兄も理解したのだけれど、
そこから、ある事件が勃発するんだよ・・・

その事件とは?

■第13話:名探偵みたいな推理

キンキン兄は、中学生で受験生だった。

おそらく受験勉強でイライラして、ホルモン的な問題が生じていたのだろう。

ある日、俺の母親がベランダに干していた下着が盗まれた。

ただ母親が言うには、もっと他に若くて美人な女性が周囲にいるというのに、
自分のパンティだけ盗まれるということは、そこにこだわりを感じると言う訳だ。

そんな名探偵みたいな推理を俺に言われても、しらんがなという話だけどな。(笑)

母親は、女友達のニジコさんに頼んで、
ためしに誰が盗むのかを見張ってもらう計画をたてた。

まず俺の母親が3歳の俺を連れて、
「じゃ、今から買い物行ってくるか」って大声で叫んで、目立つようにして出かける。

その間に、ニジコさんは、林檎アパートの2階の部屋で隠れて、ベランダを見張っとくという計画だ。

これが、思いのほか上手くいく。

母親が俺をつれてアパートに戻ると、
見張っていたニジコさんが言う。

「奥さん、やっぱり隣の子供だったよ」って。

じゃぁ、内緒で、キンキンのお母さんに忠告しておこうってなってさ。

「絶対に子供に言っちゃだめよ?もし言うと、とんでもないことになるから!それ前提で話したい事があるのだけれど」

そうキンキンの母親に約束させて、下着泥棒の話をしたわけ。

するとキンキン母が、

「どういうふうに注意しようかな」

と悩み始めるので、俺の母親が

「ちょっと最近、パンツ泥棒がね出没してるみたいだけど、誰かしら?ってそういうふうに、鎌かけて言ってみればいいんじゃないの?」とアドバイスをしたんだ。

そしてキンキン母は、旦那と、キンキンと、キンキン兄が一緒に晩御飯を食べているときに、
アドバイスを実践したそうだ。

「最近パンツ泥棒がね出没してるみたいだけど、誰かしら?」とキンキン母が、鎌をかける。

「そんな、ウチが、おばちゃんのパンツなんか、盗むはずないしなぁ」って旦那が冗談っぽく言ったら、
「そんなもの盗むはずがない」ってキンキン兄が言うもんだから。

「誰かしら」ってキンキン母と旦那が演出して、一件落着したって話。

それを聞いて、俺の母親は、「それでOKだから、もう事は忘れてくれていいよ」ってキンキン母に伝える。

俺の母親いわく、キンキン兄も、はじめの頃は、弟や近所の子供と一緒に俺の家に遊びに来てたけれど、もう中学生で思春期なものだから、恥ずかしいのだろうとの事。

本当は一緒に遊びたいのだけれど遠慮して来れないし、受験でストレスがたまってるのだろうと。

だから、雪の日に、俺の母親が近所の子供たちと一緒に、キンキン兄も誘って皆で雪合戦したんだよね。

キンキン兄は、もう中学生だけれど、俺の母親は、かまわず雪を投げてあげてさ。

そしたらキンキン兄も楽しそうに雪投げ返してきて、それで気が晴れたみたい。その翌年には、受験も合格して、かなり頭の賢い学校に通うことになったんだ。

めでたしめでたし。

■第14話:乞食をプロデュース

ある日、俺の母親の女友達であるニジコさんが、
見知らぬ女性を家に連れてきた。

「奥さん、彼女、美人だと思わない?」

「え?そうね。誰?」

「街でダンボールを漁ってたから連れてきたの」

ニジコさんが連れてきた女性は、ミサコという
ダンボールハウスに住む路上生活者であった。

ミサコは、いわゆるホームレスなわけだが、
見た目が凄く美人だったので、変身させるために連れてきたという。

「化粧させて身なり整えて、ホステスにさせようと思うの」

そう張り切るニジコさんの意気込みに、
成すがままされるがままの、ニジコ。

風呂に入れて、化粧をさせて、綺麗な服を着させると、
ニジコはファッションモデルのような輝きを見せ始めた。

俺の母親は、そんなニジコを見て、
オードリーへプバーンの映画マイフェアレディみたいだと思ったそうだ。

そんな出来事から、一ヶ月ぐらい経過したある日。

路上で大量のダンボールを載せたリアカーを引きながら、
大声で喧嘩をしている女性を、俺の母親が目撃した。

「あれ?ニジコさんじゃない!?」

強面の廃品回収業者の男に、ダンボールを撤去されそうになって怒っていたニジコは、
俺の母親に気がつくと、急に落ち着いた様子で側により話しかけてきた。

「奥さん、お久しぶりです」

「あなたホステスになったんじゃなかったの?」

「性格的にあわないから、またダンボール販売の仕事に戻りました」

ホームレスのニジコは、街に落ちているダンボールや空き缶を拾い、
それを業者に売って賃金を得ていた。

もちろん1つ数円にしかならないので頑張っても数十円~数百円の稼ぎにしかならない。

まともに考えれば、水商売のほうが稼げるのは明白だ。

ニジコは、俺の母親に、身の上話をしだした。

実家の両親は学校の先生をやっていて、そこそこ裕福な生活をしていたそうだ。
しかしニジコは愛した男との赤ちゃんを妊娠したが別れてしまう。

「赤ん坊を降ろせ」と流産を進める親に対して、
反抗しシングルマザーの道を選んだことで、ニジコは勘当され実家に戻れなくなってしまう。

今まで働いたこともなく、頼れる人もいないため、
産まれた子供を施設に預けて、自分はホームレス生活をしながら生きているとのこと。

「お金が貯まったら施設のいる娘にプレゼントをもって会いにいくの」

「まぁ、そのうち親は亡くなるのだから、将来は娘と一緒に実家に戻ればいいじゃない?」

「そうね。」

ニジコは、ダンボールハウスで彼氏と同棲しているそうだ。
お互いホームレス同士の生活。

今月は、施設にいる娘にスリッパを買ってあげなければならないらしく、あと500円必要だそうだ。
それを稼ぐために、いつもよりも多くダンボールを集めて売りに行くらしい。

俺の母親が500円を上げると言っても受け取らないニジコ。

「あげると言うと、あなた受け取らないから、貸してあげるわ。お金が出来たときに返してくれればいいからさ。」

そう言って、500円を援助する母親。

とにかく貧乏でも、施設にいる娘に愛情を示してあげ続けることが大切と助言する俺の母親。

貧乏生活から這い上がる道よりも、
貧乏生活のまま娘を愛し、彼氏とダンボールハウスで同棲する道を選んだ美人ホームレスのニジコ。

仕事の賃金や生活水準が低いだけで、別に不幸せなわけではない。

こういう道もあるんだなと思った。

■第15話:差別主義者

近所に本屋を経営してたババアがいたんだけど、
これが凄い差別主義者なんだよね。

林檎アパートの連中は、貧困層だから、
裕福層の地域に住んでいる本屋のババアにとっては、格好の標的で、いつも貧困層地域の悪口ばかり言いやがるの。

林檎アパートの住人は、あの本屋のババアが悪いこと知ってるわけよ。

例えば、「タキを施設に入れたらいい」とかさ。

そういうことばっかり言うから、俺の母親が「親が機能していない子供なのだから、自治会の皆で、かわいがるのが筋じゃないの?」って言ったらさ、「奥さんとこが、タキをかわいがりすぎるからダメなんだ」って言うんだよ?

だから「あんた頭おかしいんじゃないの?」って俺の母親が怒ったんだ。

いわゆる情愛のないタイプなのだろう。

裕福とか貧困とか、そういう問題じゃないんだよね。

ちなみに、俺たちが住む、林檎アパートの周囲は砂利の敷かれた土地にあり、一部分は駐車場になっていた。

このアパートと駐車場の大家は、
川の向こう側で遠い地区に住んでいる。

本屋を境目にし裕福層が住む地域は道路が多く自動車の出入りが頻繁にあった。

裕福層の住宅街に住んでいた2歳の幼女アミちゃんは、
家の近所で遊んでいたら、交通事故にあってしまったというのだから、

裕福層の地域で子供を遊ばすのは、危険きわまりない。

アミちゃんの家は、私立学校を経営していて、お金持ちだったのだけれど、
交通事故をきっかけにして、車の出入りが少ない、林檎アパートの地域で遊ばせたいという要望があった。

林檎アパートの大家は、全ての許可は、林檎アパートの住人が決めるというルールを作っていたから、
俺たちアパートの住人が賛成しないかぎり、この土地に出入りして遊ぶということはできないんだ。

アミちゃんは俺の1歳下で、
アミちゃんの親が「子供が事故ったから、こっちで遊ばせてもいいですか?」ってウチに挨拶しに来たから、

俺の母親が「あぁ、いいですよ」って承諾したんだよ。

そういう理由で、俺もアミちゃんとは一緒に遊んであげてたから、
林檎アパートの住人も問題なく許可をだしていた。

貧富の差はあれど、特に差別主義というわけでもなかったし。
大人も子供も皆で協力しながら、事故の無いように気をつけて遊んでいたんだ。

そのうち、本屋のババアの家も、息子が結婚して、孫ができたんだよね。

それで、アミちゃんところのマネをして「ここの場所に孫つれて遊び来てもいいか?」って急に掌を返したように態度を変えて言ってきたわけよ。

すると、タキやキンキン兄とかが「来るな!来るな!」って拒否するんだ。
林檎アパートの住人に許可されないと、貧困地域を通ることはできないからさ。

そしたら本屋のババアは「アミちゃんとこはいいよね!皆に可愛がられてて…」なんて、うらやましがるの。

利己的でどうしようもないタイプだよね。

また皮肉なことに、裕福な地域が危険地帯となり、貧困地区が安全地帯なわけだから、
子供の安全性を考えると価値が逆転してしまったのである。

今の時代「このままじゃ格差社会だ」って言うけれど、実は、今にはじまったことじゃないんだよね。

結局は他者に手を差し伸べようともしなかった人間が、
自分が困ったときだけ助けてもらおうとしても通用しないわけだよ。

差別がどうとか言う前に、どういう行動をとっているのかで人は見極めなければならないと思う。

どこに価値の重きを置くかが大切なんだよな。

■第16話:知能指数チート

ここまで母親のエピソードが多かったが、
俺の父親について話さなければ成らないだろう。

父親はキャラクターとしては良くも悪くも目立つタイプだ。

テンション高いし、男っぽいし、ルックスも良くて、運動神経もよくて、破天荒。

そんな父親が、高校時代に知能指数のテストを全問正解(正確には1問外して99%の正解率)という、
とんでもない記録をだした。

IQが高いということで東京の大学がスカウトに来て進学することになる。

父親が東京に上京するときに、寮を契約してるからって親にいわれて行ってみたら女子寮だった。

もちろん女子寮に泊まることなどできない。
上京した当日、いきなり見知らぬ土地で、宿無し生活しなければならないなんて、

こんなもの嫌がらせでしかない。

ルックスも良く、知能も高く、トークも面白く、男気があって、運動神経も抜群で、
家柄も良い完璧超人というのに、

親が理由もなく実の子供を排除しようと嫌がらせをするわけだ。

俺の先祖は、曽祖父が一代で財を成すことからはじまっている。
荒れ果てた土地を湧き水を引いて開拓し、国の軍馬を育てるビジネスを開発して財を成す。

1つの街を築き上げるために、複数のビジネスを考え、
そうしたノウハウを提供して、住民が生活できるように育て上げた。

ようするに会社という組織ではなく、
何もない土地が1つの街として発展するように、
住む場所のない人達に、仕事と住居を与えて、サイクルするようにしていったというわけだ。

曽祖父の息子。つまり俺の父親の父親であり、俺の祖父の代になると、
財産を受け継ぐだけなので、俺の爺さん(祖父)は働いたことがない。

まぁビジネスモデルが出来上がっているから、ひたすら人脈を広げることだけしていた。

ここまで聞くと、恵まれた環境のように思われるかもしれない。

ところが祖母が毒親で、俺の父親(息子)にだけ冷たく当たる。

「妊娠したさい流産するようにショックを与えてきたが死ななかった」

などと平気で言うぐらい、忌み嫌う。

あげくのはてに先祖の土地を売りまくってしまい、今や財産などほとんど残っていない。

知っての通り、俺たち家族には1円の金も入ってきやしない。

家が裕福でも、毒親なら意味がなく、
先祖が優秀でも子孫が足をひっぱることがある。

真の貧困は金銭や資産の問題ではない

マイナスからのスタートの奴と、
プラスからのスタートの奴では、

後者のほうが優位性が高いのは当たり前だ。

階段を下げてから上がるのと、
高い位置にある階段から上り始めるのでは、

スピードが違う。

父親は、そのハシゴを親に下げられてどん底から這い上がるしかなかったわけだ。

それでも俺は、それが最悪だとは思ってはいない。
きっと俺の父親も、俺と母親とともに家庭を築いて同じ気持ちであろう。

先祖が築き上げた財産により堕落するか、
先祖から受け継ぐ遺伝子を資産と考えるか

その違いが大切だ。

人間など持てるカードをいかに使うかしかない。
持っていないカードを切ることなどできるはずないのだ。

あたりまえだよな。

自分の所有する手持ちのカードは何か?そこをまずは見極めなければならない。

100世代前は不明でも2~3世代程度なら判明する。

俺がラッキーなのは両親が愛情のある人間だったということだ。

虐待などもなく、はじめから子ども扱いではなく1人の
人間という生物として扱ってもらえる。

俺のスタートした環境は、交通事故のせいで貧困からはじまったけれど、
でも不幸ではなかったと思う。

ここまでの自叙伝を読んでみて、貧困は悪だったか?お金は幸せと直結したか?

貧困と幸せと善悪とはつながらない。
こういったことは全部、それぞれ別の問題なんだよ。

俺の父親みたいなタイプが悪人になると最悪だと思う。
なぜなら頭の賢さがチート能力だからだ。

本は読まないし、字も書かないで、
見たものを暗記するという特殊能力。

俺は人生で、自分の父親ほど賢い人間を見たことがない。

俺は父親ほど賢くもないし、
ルックスも父親を超えられない。

もちろん、そんなチート能力も持ち合わせてはいない。

父親は親からの愛情を受けて育ってこなかった。
それでも心の奥底に正しさをもって生きていると思う。

正義とは何か?と問われたら、それを共通の答えとして語れる人は、まずいない。

正しさはアップデートし続けなければならないからだ。臨機応変さが求められるからだ。

愛情を学ばなくても、愛情を持つことができる。
そしてそれを他者に分け与えることもできる。

だからこそ「心」は最大の資産なのかもしれない。

■第17話:記憶の迷宮

貧乏生活も利点がないわけじゃぁない。

自宅では拾ってきた家電製品を父親が修理して使ってたし、
近所の子供とトランプで神経衰弱などをして遊んだりしてた影響だろうか…

俺は、親に買ってもらった昆虫図鑑と、ウルトラマンの怪獣百科事典を3歳にして丸暗記していたし、

当時テレビで放送されていた第一世代ガンダムのアニメを視聴し、
買ってもらったガンプラ(ガンダムのプラモデル)を組み立てて遊んでいた。

3歳児だというのに、近所に住む中学生のキンキン兄やタキ兄とガンダムの話を熱く語る毎日。

地方でテレビ放送されてる番組数が極端に少なかったため、
毎日再放送されるNHKの教育番組を何度も見てセリフも丸暗記してた。

貧困層と裕福層の入り混じるこの地域では、
名門幼稚園と、一般幼稚園の2つがあって、

名門幼稚園はテストがあるから、裕福層の地域の子供は、2歳~3歳で受験するんだよ。

名門と呼ばれるぐらいだから、さぞかし質の良い教育プログラムを受けさせてくれるのだろうと思い、
俺は、<名門幼稚園>のテストを受けることにした。

ファーストガンダムのジオン軍と連邦軍の戦争について語れる3歳の俺にとって、
幼稚園のテストは、受験などする必要もなく楽勝だった。(笑)

ちなみに、

俺の父親は「頭の引き出しに入れとけばいいだろう!」と言うのが口癖だ。

どうやら父親の頭の中には引き出しがたくさんあって、そこに情報をインプットしておけるらしい。
必要なときに取り出したり、閉まっておくということが可能とのこと。

そんな事を言われても、そりゃ天才の父だからできる芸当であって、
普通は頭の中に引き出しなんてないんじゃないか?と思ってたんだよね。

でも記憶術の本などを読んでたら、「記憶の迷宮」ってのが出てきてさ。
頭の中に部屋を作って、そこに覚えたいモノを置いておくという暗記法があることを知った。

「あぁ、引き出しって、この事を言ってたんじゃないのかな?」と俺は今にして思う。
多分、それを無意識に生まれつきできてるのが、父親みたいなタイプなのだろう。

さすがに俺は、父親のような「見るものを読み書きせずに記憶していく」という
モンスター級のチート能力を持ち合わせてはいない。

こんなもの、この文章を読んでいる99%の読者も同じだろう。理解不能の領域なはずだ。

アインシュタインは1%の才能と99%の努力と言った。

ならば1%でいいから受け継いでいる能力値は何かを俺は幼稚園で考えてたんだ。

それぞれのプロフェッショナルの英知が集合して人類は発展していく。

才能のスイッチが押されるかどうかは、本人しだい。あとは環境による運が必要だ。

好き嫌いがあれば、なぜ好きなのか?なぜ嫌いなのか?それを思考する。

例えば好き嫌いの感情さえも、
自己啓発などで好きと思わされてるだけかもしれないし、
皆が嫌っているから理由もなく嫌悪するといったような自主性の欠片もない理由かもしれない。

空っぽの自分に無理やりクソみたいなOSをインストールされてるだけだ。

なにがあっても、どんなことがあっても裏切らない関係性を、あなたが求めたとしても、
それは無条件ではないんだ。

正当なる思想とは何かを思考し、
つねにアップデートし続けなければならない。

だから俺は考えを語るし、
相手の考えを探る。

よりすぐれた思想と思考をインストールしアップデートし続けることが人類の進化だと思ってる。

多くの人にとって俺の言っていることは意味不明なのかもしれない。

それでも、

俺が両親から得た最高の宝は俺を虐待しなかったし、貧乏生活など笑い飛ばして最高のエンタメとして楽しんできた部分にあると思う。

■第18話:名門幼稚園

名門幼稚園は、いわゆる英才教育なわけだが、
入園して感じたことは、いっさい子供の事など考えられたカリキュラムではないという部分だ。

例えば、運動の時間は、運動をするための専用の会館があるんだ。そこに専用バスにのってむかう。
冬空の中、裸で、寒風摩擦をしてから、柔道着に着替えて格闘技を学ぶ。

運動会の練習と称して組み体操の練習をするのだけれど、「人間ピラミッド」とかやらされるわけ。
まだ幼稚園で身体も出来上がってないというのに、ピラミッドの一番上にのって崩れるんだよ。

これ落下して打ち所悪かったら、おしまいだからね。

ある程度の身体が出来上がった年齢なら、支えられるかもしれないけれど、
幼稚園の生徒にやらせるような種目とは思えない。だから異常さを俺は感じてたね。

格闘技は、護身用に学ぶのは役に立つけど、
それでもまずは興味をもたせるための選択肢の1つとして与えるべきだと俺は思う。

無理やり詰め込み型でやってるカリキュラムだというのが、みえみえなんだよ。

そのほか、英語の授業では、男性アメリカ人が先生で英語を教えてくれるのだけれど、

ただこのアメリカ人の先生は、給食の時間も一緒でさ。
英語の時間のときは、机を片付けるから、イスの上で給食を食べるんだけど、

その外人の先生が俺を気にいってるようで・・・

俺の隣にきて、膝の上に座らせ、一緒に給食を食べるんだよね。
そして、やたらと体をベタベタと触ってきやがる。

今にして思うと、狙われてた気がしないでもない。(汗)

語学は英語と中国語をやるのだけれど、中国語の授業では、正座させられて、着物着せられて、墨をすって筆で中国語の文章を書き写し読み上げなければならなかった。

あとは学芸会もあって、演劇をやるのだが、
大きな劇場を貸切って公演するんだ。

衣装とかも全部そろってて、宝塚歌劇団みたいなの。

これって裏を返せば、それだけ、お金がかかるということだし、
皆、お受験して面接して、テスト受けて、合格したら入園するわけだから、

「名門」という看板をアピールするための演出でしかないんだよね。

また、なんでこんな私立で金のかかる名門幼稚園に、
貧乏生活なのに通えるのか?というのは、また後で話すこととしよう。

■第19話:邪悪な園児たち

名門幼稚園の昼食は給食で、熱いスープが入った大きな鍋を2階に運ぶんだけど、
それも給食当番の園児にやらせるんだ。

近くに大人が監視してくれてるなら理解できるけど、
給食当番は男女2名で、誰もいないなか2人の園児で運ばないといけない。

重いスープの入った鍋を2人で階段を上りながら運ぶのだけど、
こぼして火傷でもしたらどうするんだろって、思ってたよ。

厳しくても大人が機能してるなら理解できるのだけど、
見せ掛けだけのカリキュラムなんだよね。

そして給食の時間は1つ1つのグループになって食べるんだ。

数人の園児と一緒に食事をするわけだけど、
そのときに、男も女も自分がいかに金をもってるかって自慢をする園児ばかりなんだよ。

その話の中で、自分よりも金を持ってない奴だって発覚すると、差別をしはじめるっていうゲームが行われるんだよね。

凄いでしょ?これ幼稚園の話だからね。

きっと親が普段からそういうことしてるから子供は、マネしてるんだろうけれど。

信じられないよ。まだ小学生でもなく、幼稚園の段階で、差別主義が生まれるんだよ。

具体的には、乞食や奴隷というニックネームをつけはじめるというゲームをしてくる。
意地悪をされて先生がきても、団結して、口裏を合わすというような感じ。

先生は幼稚園児が、こんなに知能が高いと思ってないんだよね。
でも実際は、大人が思う以上に園児の性格は歪に歪んできている。

名門幼稚園には昼寝の時間が合った。

そのとき、俺にずっと
付きまとう変な同級生がいたんだ。

その「変な園児」は、
泥水を「コーヒー牛乳だ」と言って飲んでしまうような子でさ。

そういうの見てて「うわぁ、ヤバイなこいつ」と思ってたんだよね。

そいつが、昼寝の時間中に、「外出よう」って俺を誘うわけ。

凄く嫌なんだけど、でも言うこと聞かないと殺されそうかなと思って一緒についていってみたんだ。

昼寝の時間中だから外には誰もいないんだけれど、
コンクリートの壁と壁の隅間をパテで埋めてゴムパッキンになってるでしょ?

あのゴムを手でもいで、「ガムだ」って言って、その<変な子>は食べるんだよね。

正直言って「ガムじゃねーし!」って俺は突っ込みたいわけなんだけど、
それを注意して逆上されても困るし、コイツはちょっとヤバイなって思ってたのよ。

それで昼寝の時間が終わるチャイムが鳴ったから部屋に戻ると
俺ら2人は先生に怒られるんだよね。昼寝してないからって。

こっちとしては、
「先生の、お前が一緒になって寝てるからだろ」って話なんだけどよ。

役に立たない先生なんだよ。

だんだんと名門の闇が見えてきたわけ。

あるとき、差別ゲームをしていた園児の1人が<変な子>に狙われはじめた。

実は、この<変な子>は、<差別ゲームをしていた意地悪な園児達>よりも、はるかに金持ちで、
幼稚園にも多額の寄付をしていたわけ。

こうなると意地悪な園児達のアイディンテティは、
どちらが資産が多いかで価値観を計っているものだから、逆らえなくなるんだよね。

この<変な子>は、その差別ゲームをする園児の自宅を歩いて尋ねて来て、家に上がりこんで帰らないわけ。幼稚園までの道のりはバスだから、園児が歩いて家を訪ねてくるじてんで異様なんだよ。

この当時は、ストーカーという概念も
言葉も存在してなかったけれど、いまだとストーカー気質にはいるのかもしれない。

差別ゲームをしていた園児と、その親は、周囲に助けを求め始めるのだけれど、
誰も助けないよね。誰も助けられるはずないんだ。

名門という肩書きに縛られているし、
苦労して受験して、ここまで金かけた
投資金額を考えたら辞めれないという心理が皆働くわけ。

とにかく俺は、この幼稚園は異常なのではないか?と感じていたが、
それを確定する出来事が起きた。

あるとき、俺が事故って手に包帯巻いて幼稚園行くことがあったんだ。そしたら、しょせん園児は子供だから、案の定、皆バァーって集まって「どうしたの?」って聞きに来るわけ。

いつもと違う状態だと子供のときって少し人気者になるでしょ?
目立つ者に集まる習性があるからさ。

そのときに、例の<変な子>がさ、ハサミを持ってきて俺の指を、ザクっ!と切ったんだよね。

それで、俺が頭に来て、「お前ふざけんなバカ!」って言って、蹴り倒したんだ。

それで、幼稚園の先生に「指切ったんだけど、どうすればいいですか?」って聞いたら、現場の状況を見てないから意味がわかってないんだよね。

「ハサミで指を切られたんだ」と訴えても意味が通じない。園児がそんなことするはずないと思っているのか知らないけれど、とにかく意味が通じてない。まるで言葉が通じない別の国にでもいるような状態。

それで、このバカ先生はダメだと思い、俺は自分で水で冷やして、ハンカチで指を押さえてたんだ。
そのときに「この幼稚園を辞めよう」と思ったんだよね。ここいたら殺されると思って。

この出来事を、親に説明して、
それから名門幼稚園ではなく、近所にある普通の幼稚園に通いはじめたんだ。

■第20話:普通幼稚園

「名門幼稚園」から「普通幼稚園」に入園したときに、環境の違いにビックリした。
絵本を読んで、プールに入って、鼻水たらしたガキがいっぱいいてさ。

幼稚園で飼っているウサギを園児が眺めて笑って喜んでるの。

「名門幼稚園」は精神年齢を無理やり高く上げられるわけだから、他の園児に歪みが出てきてたけれど、

「普通幼稚園」は精神年齢は低かったけれど、歪みは見られなかった。

絵本を借りる時間があって、
毎週1冊ほど自由に絵本を借りられるんだ。

このとき園児に人気だったのが「おたまじゃくしの101ちゃん」の絵本だったんだが、
あまりに人気すぎていつも借りれないんだよね。

やっと、俺が、チャンスをうかがって借りたんだよ。

すると・・どうしても、どうしても、借りたいって奴がいて、
絵本を借りられない園児が、泣いて俺に貸してほしいと頼み込むんだよ。

じゃぁ、わかったと。俺は違う、本を読むから、いいよって渡してあげたんだよ。

そんで、俺は、家に帰ってから親に言ったんだ。

ここまで人気で、泣くほどまでに借りたがってる奴がいるけどさ、どんだけ凄い絵本なんだと。
どれだけ、おもいろい内容なのか興味あると。

これだけ人気で凄いなら、買ってみようってことになったんだよ。

んで、買ってみたらさ、おたまじゃくしの101ちゃんは子供が多すぎて、迷子になっちゃった話なんだよね。まぁ、101匹ワンちゃんと若干かぶってるじゃねーかと言えなくもない。(笑)

でもタガメとザリガニが、101ちゃんを食べようとしてて、
母親が身をていしてかばうんだよね。

その間に、タガメとザリガニが争って同士討ちで死亡するんだけれど、
そういう現実的な描写とか、奇麗事ばかりでない箇所が描かれてるのが凄いなと思ってたんだ。

そのうち作者の「かこさとし」について調べてたら、
作者自体は病弱で戦争を免れたけれど、
友達は皆、特攻隊で死滅してしまったと書いてあった。

当時の日本では、戦争で死ななかった作者は、周囲から売国と迫害を受けるわけだが、
いざ日本が戦争に負けると、数日で国民の意見や思想は変化したとのこと。

このとき人間の心が、いかに曖昧でいい加減かということを理解し、同時に、死んだ仲間を思う気持ちを忘れずに、自分で情報を選別して周囲に流されない正義とは何かを、つねに考えることが大切だということを学んだそうだ。

だから絵本には、世の中の仕組みや情報を分け隔てなく入れ込んで、
子ども自身で大切な事は何かを感じて掴み取れるような描き方をしているとのこと。

大人が一方的な価値観を押し付けるのではなく、自由意志の範囲内で、
善悪を把握させていこうということなのであろう。

また「おたまじゃくしの101ちゃん」は日本全国の幼稚園で、謎の大ブームを巻き起こしたとも書いてあった。

ということは「普通幼稚園」で、起こった出来事は、同時多発で起こった現象だったのかと俺は知る訳だ。

「名門と普通」これを比較することで、俺は自分を濃度として見せることにした。

俺がバカでアホなふりをするのは、それが平和だからだ。
皆がハッピーになれるなら、それは1つの解決策の術であると思ってる。

ここから、俺はテストを白紙で出すような、異質な人間になっていたというわけだ。誰にも俺の心を縛らせないし、誰にも俺の本質を悟られないようにね。

余談だが「普通幼稚園」の近くに、ヤクザの商事会社があってさ。

俺の母親が自転車の後ろに、俺をのせて、幼稚園に向かう途中に、ちょうど、ヤクザの親分さんが、お出かけするところに出くわして」、黒の背広着た子分がずらーーーっと並んでるときだったんだよね。

俺の母親は、デンジャラス母さんだから、自転車のベルを
「ちりちりちりーーーーん!」って、鳴らすんだよ。

そしたら「素人さんが通るのに、邪魔すんじゃねぇ」って親分さんが言ってくれて、「はは」って言って、道をあけてくれてさ。

昔は、仁義って絶対的なルールだったんだよね。堅気の素人には手を出したらいけないって暗黙のルールがあった。

■第21話:運気を計る

交通事故の大怪我で入院していた父親が戻ってきた。
車も免許取消で職も失う。

しばらく仕事もないからと、父親がやりはじめたのがパチンコ。(笑)

生粋のギャンブラーではあるのだが、

どうやら勝つためのギャンブルと、
運気を計るためのギャンブルと方法が2種類あるらしい。

「運気を計る」っていうのは、
説明を聞いたけれど難しくて解説しにくい。

ざっくりいうと、人間に運気というのがあって、
強運かどうかは、見て判別する仕組みがあるとのこと。

これはパターンを分析していくと、法則性があるらしい。

そこに「遊び」として楽しめる感情の起伏を混ぜたときに、
高揚感とパターンが組み合わさる瞬間の持続性を計っているそうだ。

そして勝つためのギャンブルは、遊びが無いから面白くないとよく言っていた。

でも、勝たなければ生活はできないわけで、
このときは勝つためのギャンブルで動いていたのであろう。

パチンコ屋に行って、玉が入りそうな台をめぼしつけて、
そこに事前に時給千円で雇った、パートマイマーのおばちゃんを数人ほど座らせて先に打たせておく。

1時間ぐらいしたら時給払って、そのまま交代するという事を繰り返して、月50万ぐらい稼いでたから。それで私立の名門幼稚園の学費も払えるし、近所の子供たちにも飯をおごってあげたりできてたというわけだ。

電化製品も粗大ゴミから拾ってきたのを直して使ってたし、
見栄をはらなければ生活というものは、なんとでもなるものなのかもしれない。

ちなみに交通事故にあう前の父親の職業は、転々としている。

圧縮した生地を水に浸すと大きな生地になるという商品を開発してる会社があって、
そこの社長が俺の父親を気にいって、重役にさせて会社を築いていこうとするのだけれど、

その状態になると、俺の父親は興味をなくして辞めちゃうの。

工場専門の清掃会社のときもそうで、効率の良い清掃方法を考えて実行したら、そこの社長の目に留まって「一緒に会社を築こう」と言う話になるのだけれど、そうやって期待されると辞めちゃうの。

頭も賢いが手先も器用だから、

足で折り紙の鶴を折ったり、鉛筆にアニメのキャラクターを彫刻したりして俺と遊んでくれるのだが、

こうした技術が、縁あって有名な彫刻家の先生に注目されて、東京の都内一等地に彫刻教室があるから、それを無料で提供するので先生となって経営して欲しいという話があった。

でも父親は、その話も断ってしまう。

どうやら先のゴールが見えると興味が無くなるようだ。

同じことの繰り返しで収益が上がる事業など、クリア済みのゲームで遊ぶようなものだからと興味が薄くなるらしい。

ここらへんも俺なりに、ずっと分析して調査してきたけれど、米国で人間の才能を莫大な統計データから分析していく会社というのが存在するんだ。

それによると、
どのような人間にも突発した才能や能力というものは存在しているとのこと。

ただ何で開花するかは、環境など運の要素が出てくるという。

例えば、ベッドメイキングの達人と称されるオバサンが存在する。

彼女は単なるパートのオバサンだったが、ベッドメイキングの技術が素晴らしいということで、
客が、彼女を指名したいということとなり、やがてセレブなどからも予約が入るようになった。

これと似たようなパターンを、知り合いの話になるが俺は知っている

もの凄く美味しく握れる寿司職人の人がいて、
同じ寿司の具材なのに、握り方だけで、これほどまでに美味しくなるのかと話題になる。

そしてあるとき海外で店舗を無料で提供してもらえるという話が舞い込む。
条件は海外移住ということのみ。現在は海外で活躍しているのだけれど、

その寿司職人は握り方が最高というだけなのだが、
たったそれだけの事でも、食する客の味覚までをも変化させてしまうのだ。

たしかに人間には誰しも超越した才能みたいなものが眠っているのかもしれない。

交通事故に巻き込まれる前は、
ベンチャー企業に勤めてたのだけれど、

これは父方の爺さんが、勝手に契約して、いつのまにか就職させられていたという、
嫌がらせみたいなものだろう。

祖父(爺さん)は、曾祖父が築いた財産を所有して生きているだけなので、
基本的には投資家みたいなものだった。

そんなおり、あるベンチャー会社に投資してて、

「うちの息子(俺の父親)を給料無しで働かせればいい」という話になって、何の相談もなく勝手に就職先を決めてしまったというわけだ。

ベンチャー企業の様子見という話で、俺の父親は某地方都市に行ったはずなのに、
到着したら給料なしで働かされる超ブラック企業に就職させられる契約になっていたというね…

こういう嫌がらせを、実の親がやるわけさ。
でも信じたいという気持ちがあるから、俺の父親は従ってあげるんだと思うんだ。

このベンチャー企業が給料くれないから、作戦を練ろうと俺の母親は思って、すぐさま家を引き払って俺を連れて地方都市に向かう。

それで母親は会社に出向いてこう言うわけ。

「会社の片付けとか掃除とか全部、私がやりますから、社長の奥さんは事務だけやってていいです。そのかわり、私たち家族は給料0円では食べていかれないから、給料ください。私は無料で働きますから、そのぶん、旦那に給料あげてください。」

それから、俺ら家族は毎日ベンチャー会社に行ってたんだよね。
そしたら、どんどん会社が向上していってさ。

俺の父親は頭いいから、ベンチャー会社の扱う機械の図面を見て、
どういう配置にすれば、もっと効率がよくなるのかっていうのを計算し出して、

新しく図面を書き上げたノートを作ったら、
「独立する気なら、つぶしてやる!」って社長が嫉妬しちゃって大変でさ。

俺の父親は独立する気なんかさらさらなく、
どうすれば効率が良くなるか仕組みを考えるのが得意なだけなんだよね。

過去の職場でも全部そうで、社長に気に入られようとかそういうのもまったくない。
会社をのっとろうとか、そういうのにも興味が無いわけ。

そのベンチャー会社のロゴマークも、俺の母親がデザインしてるんだけれど、
そのマーク、いまだにその会社使ってるけどね。(笑)

まぁ、そこのベンチャー会社の社長も、出資してるのが、俺の祖父(父親側の爺さん)
だから、疑うのも無理はないのだけれど。

実際は、単なる毒親の嫌がらせみたいなもんなんだよね。

結局、爺さんはオーナーになって他人に働かせて、利益をとる権利関係のビジネスばっかやってるから、自分の手を汚してないんだよね。その元手となる資産は、曾爺さんから受け継いだだけだし。

投資先としての先見の目は悪くはないのだけれど、
でも自分の子供を道具にしてるだけな常態ってのは、やっぱ歪んでるんだよな。

給料0円で、どうやって家族を養って俺を育てていけるんだよってね。

結局、交通事故で父親は途中で働けなくなったから、
そのまま機械の図面やロゴマークのデザインなども全部譲渡して辞めちゃったけど、

退院してから、しばらくリハビリ期間としてパチンコで稼ぎながら、
免許が復活するのを待って、それから俺ら家族は、再び引っ越すことになったんだ。

林檎アパートとも、別れの時期がきたわけだ。

ちなみに現在の父親の職業は、小学生のときに俺が見つけて独立させた。

大手の会社でも難しくてサジ投げる案件を専門にやってるけれど、
難問を頭使ってクリアしていくから飽きないで続けられてるんだと思う。

今はインターネットがあるから情報収集も楽だけれど、当時の状況では、ネット環境も存在しないし、俺と母親で協力して見つけ出せる職種では、それしかなかった。

俺の父親は、金持ちで、お手伝いさんが家にいるような、裕福な家庭で育ったけれど、
それでも親の愛情がない事が不幸につながっているので、
金を毛嫌いしているふしがあるんだよね。

よく「日本は金を稼ぐことを汚いという教育が」とか、ほざいてる奴いるけど、
そんな教育誰もしてねーよな?学校でそんな授業習ったのか?あほくさい。

誰かの言葉を拝借して、使いまわして自己洗脳してるだけじゃねーかってね。

金融リテラシーをほざく前に、愛情リテラシーは、あんたにあるのかい?って思う。
そういう部分が抜け落ちてる奴かどうかを、心の奥底まで探っていく。

後ろに巨大な鉈が振り下ろされそうとしているときに、
救うべきか、救わないべきかを判断する材料は、そこにあるからな。

愛情リテラシーがあれば、貧乏とか裕福とか、そういう概念も超越できる世界が待っているはずなんだ。

俺は、そう言うことを伝えるために、今の文章を書いているわけだ。

■第22話:虐待しやがって!

夜、3歳の俺と母親と父親が歩いていると、

雪の降る、真冬の寒空の中で、見知らぬ、小学生低学年ぐらいの男の子が、マンションのベランダで泣いているのを発見した。

俺の父親が「どうした?」とたずねてみると、
小便を漏らした罰として、下着姿のままベランダに出され、鍵を閉められ放置されているとのこと。

それを聞いた俺の父親は・・・

「このクソやろう、子供を虐待しやがって!今からマンションに乗り込んでドア蹴破ってやるからな!」

そう叫びながら、マンションに駆け寄る。
「右から3番目の部屋~」と俺の母親が指示を出して、部屋を特定。

子供救うために部屋に脅しをかけにいく俺の父親は、ガンガンとドアに蹴りをいれまくる。

その行動に、部屋を特定されたらマズイと思ったのか、
下着姿の子供を急いで部屋にいれる母と思われし女性は、そのまま電気を消しておとなしくなった。

次の日、俺と母親がマンションの近くを歩いていると、
昨日ベランダに放置されてた男の子が、話しかけてきた。

「昨日は、ありがとうございました!」

お礼を言う小学生。それにたいして俺の母親は、

「いいかい?おばちゃんも、おじちゃんもキミの親にはなれないんだからね?いつも助けられるわけじゃないんだから、頭使って生き抜くんだよ?」

と答える。

「何かあったら相談に来てもいいですか?」と小学生。

「いつでもおいで」と母親。

そんな感じで、俺の家には、近所の子供が誰かしら集まってきてたんだ。

虐待なんて今にはじまったことじゃぁない。昔からある。

正義のヒーロー「スーパーマン」は現実には存在しないのに、

悪の親玉「レックスルーサー」のような人間は現実にもたくさん存在しているこの現状。

もしかしたら子供たちにとって、俺の両親はヒーローだったのかもしれないね。

■第23話:運動会

ある日、林檎アパートの住人ナナちゃんが
「お母さんが病気で、運動会にも出られないから、おばちゃん、お母さんのかわりに踊って」って言ってきた。

事情がよくわからないのに、俺の母親は一緒にナナちゃんの運動会に参加して踊ってあげててさ。
運動会関係ないのに、キンキンとかタキとか林檎アパートの子供たちもついてくるわけ。

そしたら先生が「ナナちゃん、親戚の、おばちゃんがきたの?」って言うからさ

「いや、アパートの隣の、おばちゃん!」ってナナちゃんが言うから先生もわけわからないまま、


「まぁ、ナナちゃんのために来てくださってありがとうございます」なんて挨拶してたんだよ。

で、今度は、運動会で昼ごはんの時間になって、
ナナちゃんの母親は病気で昼ごはん作れるような状況じゃないから。

それで「おばちゃん、お腹すいた」ってナナちゃんが言うから

「ちょっとまっときなさい」って言って、

俺の母親が自転車で、お寿しのチェーン点行ってさ、寿司を山のように買ってきて「食べなさい」って言ったら

ナナちゃんも、タキも、キンキンも、「これ、いつも外から見てるだけで食べたことない」って言うから、

俺の母親が寿司の食べ方を教えるわけ。

そしたら皆、大喜びで食べちゃってさ。

ナナちゃんの親戚とか誰も運動会に参加してないわけだけれど、
寂しくはなかったと思うんだ。

俺の家が貧乏だったのは、俺1人を育ててたわけじゃないからなんだよね。

林檎アパートの訳ありの子供たちにも、飯食わして育てて、そういうところに投資してたわけさ。

「投資=金」って考えの奴が多いかもしれねーけどさ、

「愛情だって投資なんだ」って俺は思うけどな。

■第24話:絶対的価値

林檎アパートの子供たちは、年齢かんけいなく、いつも俺の家に遊びに来るわけだが、
家に帰宅しても、親がいないとか、一人ぼっちとかで寂しい思いしてる状況が多いわけだ。

それで、俺の母親が、いつもメソメソしている林檎アパートの子供全員に、いらないストッキングを使って人形を作ってあげてさ。

そしたらトモキが、寝る前に少しづつ人形の髪を切っちゃって、人形の髪が坊主になっちゃって、

「おばちゃん、また髪の毛生やして」って言いにきたんだよ。

それで俺の母親が、また毛糸で長めに髪の毛作ってあげるんだ。

タキも最初は「男なのに、人形なんかもってやがる」ってバカにしてたけど、
「タキは、どんな人形が欲しいのよ?」って聞いたら「ミッキーマウス」って言うんだよ。

やっぱり、お前も欲しいんじゃないかってね。(笑)

それで俺の母親が、単なるミッキーじゃダメだと、
タキが喜ぶような、オリジナルのミッキーを作ってやるって言って、

目が動いて、着せ替えできる、オリジナルのミッキーを作ってあげたんだ。

そしたらタキが人形にチューチューとキスして喜ぶわけ。

ネズミだけに。(笑)

子供には<絶対的価値>というものがあって、例えば同じ品物でも、新しいモノと、今まで自分が持っていたモノでは後者を選択するんだよね。

これが大人になると<相対的価値>に変化してしまって、
同じ品物でも、自分が使っていた中古よりも新品を選択するようになる。

なぜ子供が絶対的価値を大切にするかというと、
そこに思い出が詰まっているからなんだ。

心や気持ちにプライスレスの価値を見出してるわけ。

■第25話:さよなら林檎アパート

まぁ、いろいろあったけれど、
林檎アパートを引っ越すことになった、俺たち家族。

引っ越しまじかのとき、タキ達と家で遊んでたら、俺の母親が、俺にこっそり忠告するんだ。

「私は、今から回覧板を渡しに行くから。あそこのカバンの中に、財布があるからね?盗まれないように、しっかり見張っとくんだよ」って。

タキは、家庭環境がほぼ崩壊してて、父親に当たり屋させられたり、母親は男作って蒸発して、たまにしか帰ってこない。掘っ立て小屋のような家は借金取りが来るから、ドアから出入りしないで、窓枠を外して出入りするような状態だ。

俺ら家族が引っ越してくるまでは、義務教育だというのに制服がなくて学校には通えないわ、給食は食べさせてもらえないわで、劣悪環境だから大変だっただろう。

ここらへんの問題が解決(緩和)できただけでも、セーフティネットが発動されてるので餓死することはなくなった。

ただ、今度は俺ら家族が引っ越していなくなることで、楽しかった日々は、なくなる。その喪失感は、子供の俺でも何となくは感じてた。

タキは財布を盗むなって気がしてたから、盗ませないように、俺も気を張ってたんだけど、そこは幼稚園児の俺だから集中力に限界があるわけよ。

タキが何か違うことに、興味を引き付けて、俺が違うことに興味津々になってる隙に、いつのまにか財布を盗ってるわけ。

こういう手口をミスリードって言うんだよね。左手を隠したいときは、右手に注目を集めるようにさせる。そのあいだに左手で行動するというマジシャンが良く使う手法なのだが、スリや万引きなどでもよく使われる。

で、後から財布が盗まれたことに気がついて、俺は母親の自転車の後ろにのってさ、帰宅したタキを一緒に探すんだ。

そして、やっとタキを見つけて、俺の母親がタキと話すんだよ。

「タキさ、盗んだなら盗んだで、返してくれとは言わないけど、あの財布は、気に入ってたやつなんだよね。もしも、タキが財布を気に入ってるんなら、財布もあげるから返さなくていいけど。財布は?どうしたの?」

そしたら本当かどうかわからないけれどタキは「財布は、川に捨てた」って答えるんだ。

「どこの川よ?」
「もう川に流れちゃってない」

って言うから。

もしかしたら、引っ越す直前だったから、何か、忘れられない記念を残したかったのかもしれないって俺の母親は感じ取ったらしく…

「それならそれでいいけど、もう、こんなことしたらダメだよ?だって最後の思い出が、財布を盗んでバイバイじゃ、心苦しいまま、お別れしなくちゃいけないくなるんだよ?それでいいの?」

「やだ」

それで、最後の思い出に、絵本を1冊あげることにしたんだよね。

よく俺の母親が林檎アパートの子供たちに絵本の読み聞かせをしてたからさ。

いくつかある絵本の中で、タキが好きだったのは「王子とツバメ(幸福な王子)」という絵本だった。

【童話】幸福な王子(王子とツバメ)【あらすじ】

昔、ある街に「幸福な王子」と呼ばれる王子様がいたが、突然亡くなってしまう。悲しんだ国民は王子の銅像を作り、体に金箔を貼り、目にはサファイア、剣にルビーをつけた。

ある日、旅をしていた一匹のツバメが銅像で休んでいると、王子の銅像がツバメにお願い事をしてきた。

「高熱で苦しむ男の子がここから見えるけれど、貧乏で薬が買えないようだ。この剣についているルビーを渡してあげてもらえないか?」

ツバメは、王子の指示に従いルビーを外して熱で苦しむ男の子の家に届けた。そしてルビーを売ったお金で薬を買い、男の子は助かる。

続いて王子は、両目のサファイアを外して片方は貧しい若者へ、もうひとつは貧困で飯が食べられない少女へ渡すようツバメに頼む。

そして人の幸せのために両目を失った王子を見て、これからは自分が王子の目の代わりになるとツバメは決意する。

それからツバメは町中を飛び回り、貧困で苦しむ人々を見つけては王子に報告する。

王子は、自分の体に貼られた金箔を貧しい人々に配るように伝え、やがて体中の金箔が剥がされ、銅像は灰色の王子となってしまうのだった。

そして冬が訪れ雪が降り出し、寒さに弱いツバメは力尽きて王子の足元に落ち亡くなってしまう。
ツバメが死んだ悲しみから王子の鉛の心臓は鼓動を停止し、王子の銅像も、また意識がなくなる。

灰色となり、汚くなってしまった王子の銅像を見た町の人は、像を溶かそうとしたが、なぜか鉛の心臓だけは溶かすことができなかったので、ツバメの死体とともにゴミとして捨ててしまう。

その頃、天国では神様が天使に「この街で一番美しいものを持ってきなさい」と指令を与えていた。

そして天使は、ゴミ捨て場から王子の心臓とツバメを手に取り、神様に差し出すと、神様はうなずき、王子とツバメに再び命を授け、2人は天国で幸せに暮らしたのであった。

タキは、俺の母親が絵本を読み聞かせるとき、
この本が好きで、いつも泣きながら聞いていた。

そんな「王子とツバメ」をタキにプレゼントして、俺の母親は言った。

「タキは、心の優しい物語が1番好きで、本当は心が優しいコなんだよね。この中で、これを選ぶっていうのは、本当に純粋なんだ」って告げる。そして…

「タキが、どんなに、おばちゃんのことを好きでも、おばちゃんはタキのお母さんにはなってあげられないのよ。永遠に、おばちゃんは、おばちゃんなのよね。だから別れのときは、くるんだよ。あんたのお母さんは、どんなひどいお母さんであっても、あんたのお母さんなんだよ。だから皆が、あんたのお母さんの悪口言っても、あんたは悪口言うんじゃないよ。あんたは、お母さんとお父さんの味方をしてあげるんだよ?わかった?」って言ったら

「うん」って泣きながらタキはうなずく。

「つらいだろうけど、別れは、くるんだからね?元気でね」って。それが最後の別れの言葉となる。

その後、俺の母親は、俺にジャンバルジャンの、「レ・ミゼラブル(あぁ無情)」の話をするんだよ。

俺は、その物語に興味があったので、小説を買ってもらい、読み聞かせてもらった。

後日、偶然、洋画で「レ・ミゼラブル(あぁ無情)」が放送されてたから、それも幼いながらに鑑賞して、タキが財布を盗んだことと照らし合わせながら、いろいろ考えたよね。

ここまでが、俺の<幼少期編>なわけだが、
あなたは、何を感じ学び得たか?それが大切だ。

もしも、俺と会う機会があるとしたら、俺は、そこを見てる。

人の心っていうのは「性根が腐ってるかどうか」で決まるから。

罪を憎んで人を憎まず。

まさにその通りで、

目の前にある幸せに感謝できない奴が、その先に進めるはずがない。

他者と比較し愚弄する奴が、自分を救えるはずがない。

<こっち側>と<そっち側>。

自分の為
相手の為
社会の為

こういうサイクルっていうのが大切なんだよな。

幼少期編・完

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