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プロローグ

無気力な男がいた。

たいした不満もないけど…なんとなく退屈な日常。

男の名は…sanzi

【SEXの味】は知ってても
【恋愛の味】は知らない男だ。


数年前の、ある日。

八月。

夏の暑い日。

お盆なので死んだ友達の家に供養に行った。
供養には毎年欠かさず行っている。死んだ友達の名前は、U君。

小学生時代からの友達だった彼は俺が二十歳の時に死んだ。

職場のイジメによるストレスが原因だそうだ・・・U君には好きな女がいたらしい。


結局付き合えたのかは知らない。

俺達は、成長し大きくなるに連れて、
それぞれ別の道を歩み始めて連絡も取らなくなっていた。

久しぶりの再会。

そのときには、冷たい身体の彼が布団に寝てた。

彼の死体を眺めながら俺は思った・・・

『俺はU君の為に何をしてあげられたんだろう?』

『U君は二十年間の人生で恋愛て出来たのかな?』

今までセックスしても
俺は恋愛には興味がなかった。

恋愛映画を見ても『くだらねぇ…』涙も流さなかった。

女性は寂しいから恋人をつくり、
男性はセックスの為に恋人を作る。

トキメキと言う名の恋心も
相手の心理を揺さぶれば誰だって口説ける。

そんな屈折して冷め切っていた少年時代だった。

『俺が死んだら誰が悲しんでくれるんだ?』

そんな疑問から【恋愛の味】に興味をもち始めたのが二十歳のこのとき。

どれだけ生きたかより・・・
どのようにして生きたか・・・

同じ二十年間の人生は、生と死に別けられたのであった。

▼1999年~パーティー~

歳月が過ぎ、
彼の死を乗り越えたある日。

仕事関係の友人S氏に連れられパーティーに行った。

六本木で開催されてた小さなパーティー。
主催者の女性達を紹介された。

『可愛いらしい女性だな…』一目見てそう思った。

これが、Y恵との出会いの瞬間だ。
彼女は婚約してて秋に結婚するらしい。

婚約者は…某TV局プロデューサー。
経済力も包容力もルックスも全て俺より上だった。

挨拶を交しながら

『もう二度と会う事は無いだろうな…』そう思ってた。

20代前半の俺と、
20代後半のY恵では、

世界観が違っていたのだ。

【恋愛の味】も知らない男に【結婚】など興味なかった。

▼2000年~春~

俺は一人暮らしを始めた。

段ボールだらけの部屋を片付けてたらS氏から

『どう一人暮らしは?今晩食事でも行こうよ?』と誘いの電話があり表参道に出向く。

『女性も2人来るけどイイよね?』とS氏に言われ

『どんな女性が来るんですか?』 と女好きの俺は気になって聞きかえす。(笑)

店に到着して…目の前にいる女性を見て驚く!

『あ!覚えてる?俺の事?』

『あ~この前のパーティーに来てくれたコね?』

Y恵との再会である!

茶色い目、透き通るような白い肌、綺麗な黒髪の年上女性。
何でもない会話が楽しかった。

彼女の視界に自分がいることが幸せだった!

帰りに携帯番号を交換して
胸がドキドキしたのを今も覚えてる。

そして段ボールに囲まれた一人暮らしの家に帰り、なぜか寂しい気持ちになったのを覚えてる。

数日後・・・

何回かメールをやり取りして
俺は彼女を映画に誘う。すると…

『映画見る時間て会話できないじゃない?もったいないからデートしましょう』と彼女。

『こんなセリフを言う女性、始めて見た!』

呆然とする俺の心に、今までと違う『何か』が生まれようとしていた。

(ドキドキ)

彼女を口説きたくて、

(ドキドキ)

前もって喜びそうな
デートコースを調べといた。

まるで中学生が始めてデートするような行動…

(ドキドキ)

なんだこの感情は?

『そうか・・・これが恋というものなのか?』

セックスの味は知ってても恋の味は知らない俺にとって初めての恋・・・

そう、初恋であった。

胸がドキドキしながら彼女とデートした。

街を散歩してショッピングして食事してBARに行って、 そして・・・

『どうしよう?好きなんだ…つきあいたい』告白・・・

『婚約してるんだよ?』

『知ってる…でも好きなんだ!』

『・・・ツライわよ?』

『・・・覚悟してる!』

・・・純粋に最低な関係の2人。

『2番目でもイイから付き合って欲しい…』

本気で惚れた女に告白した瞬間の言葉だった…

【2番目】・・・認めたくない現実がそこにはあった。

これが泥沼恋愛の始まり。

つまりは、ゲームスタートの合図。

その日・・・俺と彼女は結ばれ朝まで抱き合った。

『婚約した日にね?』

『うん?』

『夢を見たの…知らない男の子が出て来る夢を…』

『ふーん』

『その男の子と一緒にいると、ふわふわして幸せな夢だったの』

『ふわふわ?かわいね?』

『ずっと気になってて…でも気にしないようにしてた』

『それで?』

『始めてキミに会った日…ビックリしたヨ?』

『え?』

『似てたの!キミに…』

『はは!運命なんじゃん?』

『今、キミに抱かれて確信もてたかも?』



毎日電話した。

逢える日は絶対逢ってた。
こんなにも人を愛せるとは思わなかった。

でも…結婚の日は半年後に迫っていた。

彼女は週末には婚約者の家に泊まりに行く…

その日は電話もできない・・・

逢うこともできない・・・

俺という存在は消えてるのだ・・・

孤独・・・

寂しい・・・

一人ぼっち・・・

毎日のように泣いていた。



『今度のゴールデンウィーク、どっか行こうよ?』

『ゴメン、彼と旅行行くから連絡とれない』

『・・・そう』



居場所がなかった。

毎日の電話もケンカする回数も増えた。
そしてゴールデンウィークがやってくる。

彼女が婚約者と旅行に行ってた日・・・俺は浮気した。

日に日に近づく結婚の日。

彼女を忘れる為に、俺は逃げるように浮気した。

ある日…

『お前の子供が欲しい…』

『・・・』

『やっぱり好きなんだよ…』

【1番】になりたかった…始めての“欲望”だ。

受話器から彼女の声が聞こえる『もう恋は冷めたの…始めからタイプじゃないし…』

嫌われようと嘘を言ってるのは解ってる。
だがショックを隠しきれずに電話を切った。

呆然としながら俺は最後のメールを送る。

『大好きだけどサヨウナラ…今でも愛してます!』と・・・

その瞬間!

電話が鳴る!

彼女からだ!

『嘘!やっぱり好きなの!』

2人とも泣きながらヨリを戻した瞬間である。

だが、運命の歯車は噛み合わないせいか泥沼は、ますます最悪の状態へと進む。



『もしもし?あのね?お腹が痛くなって救急車で運ばれて今、病院なの…』

『病気?今から会える?心配だよ!』



終電がなくなる時間帯に、いきなり衝撃的な電話。

【子宮の病気】…子供も産めないかもしれない。

出会って半年が過ぎる間際の出来事であった。



その時、彼女の側にいた男は俺ではなく婚約者。



悔しかった。

男として彼女の側に入れない事が…悔しかった。



そして連絡が取れなくなった…



『婚約者と結婚するんだろう?』そう思い俺は新しく彼女を作った。

(ゲームオーバー)

心の中で何かが壊れて行く音がする。

数カ月後…

俺は1ヶ月【海外】に行くことになる。

新しい彼女と食事をして家に帰り荷物をまとめてると・・・着信。

Y恵からだ!

『何で今頃…』

ゲームは終わってなかった。

俺は精一杯明るい声で自分を押し殺した。

いや、本当に嬉しかったから自然に明るい声だったのかもしれない。



『久しぶりだね?』

『電話とってくれないと思った…』

『なんでよ?』

『怒ってるでしょ?』

『結婚したんだろ?』

『もう婚約者とは別れたよ』



嬉しかった…電話を切り、
そのまま渋谷に向かった。

もうすぐY恵の誕生日、あるプレゼントを購入した。

そして、Y恵の誕生日に【指輪】を渡した。

『結婚したい!』…無責任な発言だが俺は本気だった。

金も車も学歴もない俺だが彼女を愛する気持ちは本気だった。

【恋愛の味】を知った男は
【結婚】に興味をもちはじめていた。

Y恵の返事を待ったまま空港でキスをして日本を後にした。

1ヶ月後・・・【日本】に帰国する俺。

本命彼女のY恵に会いに行く。

『実は新しい彼氏がいるの…』

俺が海外に旅立つ前に心配を掛けさせたくなくて黙ってたそうだ。

【病気】になり連絡が取れない間・・・俺は側にいれなかった。

『キミに負担をかけさせたくなかったの』

若すぎる俺が罪なのか、
年上の彼女が弱いのか、

2人の歯車は噛み合わない。

いつまでたっても噛み合わない。

裏切られた気持ちで悔しかった。

俺と本命彼女の間に【溝】が出来た瞬間だった。

▼2001年~1月1日~

21世紀…俺は【ナンパ師】になった。

男と女の本質が知りたくて・・・
すべての答えが知りたくて・・・

Y恵と話し合って冷却期間を置いた。

『しばらく会うのヤメましょう?』

『うん、俺もそう思ってた』

『ちゃんと心の中にいるからね?』

『わかってるよ・・・』

それから音信不通になりY恵と連絡が取れなくなった。

期間限定でナンパしようと思った。

たくさんの女性を見て自分の気持ちを確かめたかったから。

そして俺の旅は、まだ続いている。

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